『夜中に犬に起こった奇妙な事件』鑑賞〜知りたい気持ち、その衝動

『夜中に犬に起こった奇妙な事件』

原作:マーク・ハッドン

脚本:サイモン・スティーヴンス

上演台本:蓬莱竜太

演出:鈴木裕美

出演:森田剛 高岡早紀 小島聖 西尾まり 宮菜穂子 柴一平 

   安田栄徳 石橋徹郎 久保酎吉 入江雅人 木野花

劇場:世田谷パブリックシアター

公式サイト:http://www.cidn.jp/

+++++++++

あらすじ:幸人(森田剛)は、アスペルガー症候群自閉症の一種)の15歳の少年。物理や数学では天才的な能力を発揮するが、自閉症のために生き難いことも多い。たとえば他人とうまくコミュニケーションを取れない、予想外のことに対応できない……など。そんな息子を気遣う父の誠(入江雅人)と幸人は2人で暮らしている。母の広美(高岡早紀)は、2年前に心臓発作で急死していた。

 

ある夜のこと、隣家で犬が殺される事件が起こる。「誰が犬を殺したのか───?」

幸人はたった一人で犬殺しの犯人を捜すことを決意し、その過程を小説に書くことを担当教員の瑛子(小島聖)に勧められる。近所の老婦人・白瀬(木野花)から驚くべき事実を知った幸人は、さらなる“冒険"にでかける。

 

※ネタバレしています。

 

 

 ある夜、犬が死ぬ。誰がいったい殺したのか、その謎が彼の背中を押す。彼は「知りたい」と思う気持ちを、その衝動を知ったのだ。学ぶこと、知ること。それだけが人を成長させ、とことん叩きのめされてもまた立ち上がる力をくれるのだということを清々しく描いた、素敵な舞台でした。主人公役の森田剛はとても繊細に、そして勇敢に問題に立ち向かう少年を演じていたし、不完全でどこか不安定な両親を演じた入江雅人高岡早紀の両人や、近隣の老婦人・白瀬役の木野花などキャストもとてもよかったと思います。3時間という長尺は見るまえは不安でしたが、世界に惹き込まれ漂う時間は心地よかったです。

 

 その約3時間という上演時間の間、出演者はほぼ全員舞台上に常にいるという手法で、セットは学校の教室。主人公が起きた出来事を学校の課題として小説に書いている、という設定である。

 つい自分と年齢や状況の近い(私も15 歳の息子がいるし)、誠や広美に感情移入してしまうが、幸人視点は外れないので彼らは重要な役柄ではあっても、多くは語られない。なので、芝居中ずっと、彼らの身勝手さや甘えにイラッとしてしまっていたし、終盤、息子の成長に呼応して彼らもまた変化を見せる部分も「彼らは変わったように見えるが実は何ら変わっていないのでは」と見えてしまっていた。そして幸人の成長に比べて彼らは弱いように感じてしまったのであるが、帰り道、それは間違いだったと思い直した。

 確かに、父は、幸人に犬をくれたけれども、また今度はその犬を殺すかもしれない。母は、彼のためにそばに戻ってきたけれども、また2年前と同じように息子を捨てるかもしれない。彼らの言動は口先だけに過ぎず、本質的にはさして変わっていない。そのときになれば幸人はいいようにまた踏みにじられてしまうのだろう。私が持った懸念は、そう大きく間違ってはいないとおもう。ただし、ただの過保護な甘やかしでしかない。

 でも、その“冒険"を経て、ただ途方にくれて一歩も動けなくなってしまうかつての幸人とはもう違う、ということが大事なのであって、父や母、彼をとりまく周囲が、彼を攻撃しないようになることが理想ではないのだ。